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前橋地方裁判所 昭和63年(行ウ)1号 判決 1990年1月18日

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、昭和六三年一月一一日付けで、株式会社日本イーディビーに対してなした 別紙一産業廃棄物処理業許可証目録記載の産業廃棄物処理業許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告群馬県知事は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)一四条に基づき、群馬県内において産業廃棄物の収集・運搬・処分を業として行おうとする者に対する営業許可をするものであるところ、昭和六三年一月一一日、訴外日本イーディビー株式会社(以下「訴外会社」という。)に対し、廃棄物処理法一四条に基づき、別紙一産業廃棄物処理業許可証目録(以下「本件許可証目録」という。)記載の営業許可処分(以下「本件許可処分」という。)をなした。

2  本件許可処分は、廃棄物処理法一四条二項に違反してなされた違法なものであり、取り消されるべきものである。

3  原告らは、いずれも本件許可証目録記載の「処理施設の設置場所」(以下「本件最終処分場」という。)に隣接ないし近接した地域において、現に農業ないしドライブイン等の食堂を営んでいる者、または本件最終処分場付近に居住する者であり、本件許可処分により訴外会社が行う本件最終処分場における産業廃棄物の埋立てに伴って発生する環境破壊によって、その生命・健康・農業・飲食業・生活環境等に甚大な被害を被らざるを得ない立場にあるものである。

4  よって、原告らは、本件許可処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  行政事件訴訟法九条の行政処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分の取消しにより回復すべき自己の法律上の利益を有する者、つまり当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

2  廃棄物処理法一四条一項本文は、「産業廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。」と定めており、右許可は、一般的に禁止されているところの産業廃棄物処理業につき、一定の要件を具備した申請者に対し、その禁止を解除し、その営業を適法に行う自由を回復せしめる効果を有するものである。従って許可を受けた者に対し特別の権利を付与するものではない。

他方、右許可は、許可を受けた業者の産業廃棄物処理施設における廃棄物の処分によって公害等の被害が出た場合に、当該処理施設の周辺住民に対し、右被害を受認する義務を課するものではない。すなわち、産業廃棄物処理業者に対する右許可は、右処理施設の周辺住民に対し何らの権利義務の変動も、もたらさないものである。

3(一)廃棄物処理法は廃棄物を適正に処理することにより、公益であるところの生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としており、これにより国民が受ける利益は、いわゆる一般的、反射的利益であって、法の直接保護する利益ではない。

(二)産業廃棄物の処理業の許可は、前記のとおり、一定の要件を具備した申請者に対し、その禁止を解除し、産業廃棄物処理業の営業を適法に行う自由を回復せしめる法律上の効果を有する処分であり、同法は右一定の要件について、一四条二項一号で「その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること。」、二号で「申請者が第七条第二項第四号イからハまでのいずれにも該当しないこと。」と定めているのみであるところ、これらの要件は、産業廃棄物を適正に処理するためのものであって、周辺住民の個人の権利を直接保護するものではない。

4  以上によれば、本件許可処分にかかる本件最終処分場の周辺住民にすぎない原告らは、本件許可処分につき法律上保護された利益を有さず、従って、本件許可処分の取消しを求める「法律上の利益を有する者」とは言い得ないから、原告らは、行政事件訴訟法九条に規定する原告適格を有しないものであり、本件訴えは、不適法却下されるべきものである。

三  被告の本案前の主張に対する原告らの反論

1(一)  廃棄物処理法は、昭和四五年一二月二五日、公害や生活環境破壊が全国的に多発し激化する中で、いわゆる「公害国会」において、公害対策基本法の精神に則って、旧清掃法を全面的に再検討及び見直す形で新たに制定されたものである。

(二)  廃棄物処理法は、「この法律は廃棄物を適正に処理し及び生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする」(同法一条)としているが、この趣旨は、旧清掃法は、市街地における住民の生活環境を、防疫上の見地から清潔な状態に保つことによって、公衆衛生の向上を図るものであったのに対して、廃棄物処理法は、人口密集地での清潔保持にとどまらず、公害対策基本法に規定する生活環境、すなわち人の生活環境の保全を、その目的に加えたことにより、公害の防止に資する法律としての性格を新たに付与されることとなったものであると解されている。

2  以上のような廃棄物処理法の制定経緯を考えると、廃棄物処理法の解釈においては、公害対策基本法の精神は当然重要な解釈上の指針となるものである。そして、公害対策基本法が、その目的とする「国民の健康」及び「生活環境」は、その法益の重大性、貴重性から単なる公益のみならず、具体的な国民個々人の健康、財産といった個人的利益をも保護していると解するのが相当であることから、公害対策基本法を受けて制定された廃棄物処理法における「生活環境」も、公益のみならず、施設周辺住民の個人的利益すなわち生命、身体、財産等を具体的に保護目的としていると解すべきである。廃棄物処理法一四条三項は、都道府県知事の許可には、生活環境の保全上必要な条件を付することができる旨規定しているが、これは右のような意味での「生活環境」の保全が、許可の際の重要な指針となることを明らかにしたものと解すべきである。

3(一)  廃棄物処理法一四条二項一号にいう「厚生省令で定める技術上の基準」とは具体的には、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和四六年厚生省令第三五号、以下「廃棄物処理法施行規則」という。)一〇条のことであるが、同条では産業廃棄物の収集、運搬、処分の各業務別に、技術上の基準を詳細に定めている。例えば、「産業廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が漏れるおそれのない保管施設」(同条一号ロ)、「搬入された産業廃棄物が飛散し、流出し、及び地下に浸透し、並びに悪臭が漏れるおそれのない保管施設」(同条一号ヲ)、「埋立処分を業として行おうとする産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の埋立処分に適する最終処分場及びブルドーザーその他の施設」(同条三号イ)の如くである。このような詳細な基準を定めた趣旨は、産業廃棄物が有する危険性に着目し、その危険性によって被害を被る対象が、人間の生命、身体等の重要な法益であることから、右法益を最大限に保護することであることは、言うまでもない。

このような法規制の姿勢、趣旨からすると、施行規則一〇条、廃棄物処理法一四条二項一号は、単に、公益としての生活環境の保全のみを目的とし、周辺住民の個人的利益は、公益の保護を通じて、反射的に保護されるに過ぎないという解釈は、詳細な法規制の意図を全く無視した空疎なものであり、公益と併せて、それとは独自の保護に値する価値、必要性を有するものとして、周辺住民の個人的利益を保護していると解釈するのが相当である。

(二)  廃棄物処理法一四条二項二号では、廃棄物処理業許可の欠格要件として、廃棄物処理法又は同法律に基づく処分に違反し罰金以上の刑に処せられた者(イ)、許可を取り消されたことのある者(ロ)、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者(ハ)を対象としてあげている。

過去には、廃棄物処理法やそれに基づく処分に違反した経歴を有する者(イ)、(ロ)のみならず、いわゆるおそれ条項(ハ)を設けて許可要件の一つとした趣旨は、許可を行うにつき支障があるような場合に弾力的に対応するためであり、おそれ条項の適用にあたっては、厚生省廃棄物対策室長からの通知<証拠>で一応の基準を定めているが、その中に「法と同種の法目的を持った法律(公害関連法規)又は、当該法律に基づく処分に違反し、罰金以上の刑に処せられた」場合が含まれていることからしても、国民個々人の健康の保護を図ることを主要な目的として、おそれ条項を設けたものと考えられるのであり、この点からも、周辺住民の個人的利益は、廃棄物処理法七条二項四号ハ、同法一四条二項二号によって公益とは独自に保護目的とされていると解される。

(三)  廃棄物処理法を受けて制定された、群馬県における産業廃棄物の最終処分場、中間処理施設、保管・積換施設、再生利用施設の用地の選定、構造及び維持管理等の基準並びに事務手続等に関する基準(以下「用地選定基準」という。)は、第一章第一1(1)において、最終処分場の立地環境として、最終処分場の用地は当該最終処分場の位置、構造及び最終処分方法等から、「水質汚濁、悪臭、粉塵、大気汚染、騒音及び振動等の公害発生のおそれのないものであること」と定めており、更に同3では、最終処分場の立地に関しては、隣接地の地権者及び最終処分場の敷地からおおむね五〇メートル以内に居住している者(・1)、最終処分場の敷地から三〇〇メートル以内に所在する町内又は区等の地域の代表者(・2)、最終処分場の所在地を管轄する市町村の長(・4)等のいわゆる関係者の承諾を要する、と定めている。

(四)  以上述べた、廃棄物処理法一四条二項、廃棄物処理法施行規則一〇条、用地選定基準の内容からすれば、これらの規定が施設周辺住民の個人的な利益つまり個々人の生命、身体、財産等を保護目的としている趣旨であることは明らかであり、このことからも、廃棄物処理法一四条二項が、単なる公益のみならず、それとは独自に、施設周辺住民の個人的利益をも保護目的としていることが根拠づけられるものである。

4  以上によれば、廃棄物処理法一四条二項の規定は、単なる公益のみならず、廃棄物処理施設の周辺住民の個人的利益をも具体的に保護するものであることは明らかであるところ、原告らは、本件最終処分場の周辺に居住し、処分場に廃棄された産業廃棄物によって悪臭、粉塵、ばいじん等が生じた場合には、その生命、身体、財産等を侵害される蓋然性のある者たちであるから、原告らは本件訴えの原告適格を有するものである。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

3  同3の事実は知らない。

五  被告の主張(本件許可処分の適法性)

1  産業廃棄物処理業の許可は、廃棄物処理法一四条二項の要件に合致すれば、許可しなければならない処分であり、その要件は、次のとおりである。

a その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること。

b 申請者が廃棄物処理法七条二項四号イからハまでのいずれにも該当しないこと。

2(一)  右aについては、廃棄物処理法施行規則一〇条一項三号で最終処分を業として行う場合の基準を、以下のとおり定めている。

<1> 埋立処分を業として行おうとする場合その埋立処分を行おうとする産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の埋立処分に適する最終処分場及びブルドーザーその他の施設

<2> 産業廃棄物の埋立処分又は海洋投入処分を適確に遂行するに足りる能力

(二)(1) 右<1>の産業廃棄物処理施設については、廃棄物処理法一五条の規定するところである。

すなわち、

[1] 産業廃棄物処理施設(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令七条の一定の要件に該当する施設)の設置をしようとする者については、設置届の提出を義務付けている(一五条一項)。

[2] 産業廃棄物処理施設の設置については、厚生省令(最終処分場にあっては総理府令、厚生省令)で定める技術上の基準に適合していないと認められるときは、知事はその設置計画変更又は廃止することができるとされている(同条二項)。

[3] 産業廃棄物処理施設の維持管理については、厚生省令(最終処分場にあっては総理府令、厚生省令)で定める技術上の基準に従うこととされ(同条三項)、都道府県知事は、産業廃棄物処理施設の構造又は維持管理が、この基準に適合していないと認めるときは、改善を命じ、又使用の停止を命じることもできるとされている(同条四項)。

右によれば、廃棄物処理法一五条の届出に基づき設置された施設は、当然に適法な施設であり、「その埋立処分を行おうとする産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の埋立処分に適する最終処分場」であるといえる。

本件最終処分場も、同法一五条の届出に基づき設置された施設であるから、当該産業廃棄物の埋立処分に適する最終処分場であるといえる。

(2) また、本件最終処分場は、ブルドーザーその他の施設についても、ブルドーザー、バックホー、散水車等必要なものを備えている。

(三)  前記<2>の申請者の能力については、単に「産業廃棄物の埋立処分を適確に遂行する能力」と定めているだけであり、昭和四九年四月一三日厚生省令生活衛生局長通知に基づき、その能力については、厚生大臣の認定した講習会の受講者と同等以上の者がいるということで運用しているところ、訴外会社の従業員である横村豊明は、技術管理者の資格を有しているうえに講習会をも受講しているのであるから、訴外会社には、産業廃棄物の埋立処分を適確に遂行する能力があるといえる。

(四)  以上によれば、本件最終処分場の施設及び申請者の能力は、厚生省令で定める技術上の基準を満たしているのであるから、この点に関しては、本件許可処分は適法である。

3(一)  次いで、前記bの要件については、廃棄物処理法七条二項四号は、欠格要件であり、申請者(申請者が法人の場合は、その業務を行う役員を含む。)が、左記の要件に該当しないことが必要である。

イ 廃棄物処理法、又は廃棄物処理法に基づく処分に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者

ロ 廃棄物処理法七条一一項の規定により許可を取り消され、その取り消しの日から二年を経過しない者

ハ その業務に関し不正又は不誠実な行為をすると認めるに足りる相当の理由がある者

(二)(1) 訴外会社が、右イ及びロの要件に該当しないことは明らかである。

(2) 右ハの要件は、いわゆる「おそれ条項」であるところ、被告は、本件許可処分に際し、訴外会社が右ハの要件に該当することを認めるに足りるような事実に接していない。

(三)  以上によれば、訴外会社は、右いずれの欠格要件にも該当しないものと認められる。

4  以上述べたところによれば、本件許可処分は、法の規定する要件を満たした適法なものであり、何ら違法な点はない。

六  被告の主張に対する認否及び反論

(認否)

1 被告の主張1の事実は認める。

2(一) 同2(一)の事実は認める。

(二)(1) 同2(二)(1)の事実中、産業廃棄物処理施設について、廃棄物処理法一五条が規定していること、本件最終処分場は、同条に規定する届出に基づき設置された施設であることは認め、その余の事実は否認する。

(2) 同(2)の事実は知らない。

(三) 同2(三)の事実中、訴外会社に産業廃棄物の埋立処分を適確に遂行する能力があることは否認し、その余は知らない。

(四) 同2(四)の事実は否認する。

3 (一) 同3(一)の事実は認める。

(二) 同3(二)(1)の事実は認め、同(2)及び(3)の事実は否認する。

4 同4の事実は否認する。

(反論)

1 廃棄物処理法は、一四条以下において、産業廃棄物業者が、産業廃棄物の「収集・運搬、又は処分」を業として行う場合における許可制度及びその許可基準を定めている。そして、本件最終処分場のような「管理型最終処分場」の処理施設の設置届出及びその営業許可に関しては、廃棄物処理法七条、一四条及び一五条で基本的事項を定めている。そのほか、その手続及び基準等については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和四六年政令第三〇〇号、以下「廃棄物処理法施行令」という。)、廃棄物処理法施行規則及び一般産業廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令(昭和五二年総理府・厚生省令第一号、以下「共同命令」という。)に定めがあり、さらに群馬県は、右法令・規則の規定に基づき、それらの規定を具体的に実行するために、群馬県産業廃棄物処理施設の事前協議などに関する規定(以下「事前協議規定」という。)、用地選定基準及び群馬県産業廃棄物処理などの基準に関する規程(以下「廃棄物処理基準規程」という。)を制定、施行して、産業廃棄物の処理施設の届出に関する<1>事前協議<2>用地の選定などの基準<3>廃棄物処理に関する基準などについての手続及び審査並びに許可基準を定めて、その適正なる規制をしている。

2(一) 最終処分場の処理業の許可の技術上の基準については、廃棄物処理法一四条一項一号の規定を受けて、廃棄物処理法施行規則一〇条において「技術上の基準に適合する施設及び能力」について定めている。右施行規則の立法趣旨は、廃棄物処理業者の行う操業によって生ずる公害や環境の悪化を防止するために、処理業者の営業許可条件として、技術上及び能力上の基準を規定したものである。右立法趣旨に鑑みると、産業廃棄物の最終処分を行うにあたっては、まず廃棄物処理法施行令六条に規定する基準に適合した埋立可能な適地の選定がまず必要な条件となる。例えば、砂利などを採取した後の湧出水が自然に貯溜するような窪んだところに、地下水汚染の恐れのある産業廃棄物を埋め立てることは、不適当な土地の選定であり、立地上不適格である。

(二) 産業廃棄物処理の最終処分場の用地の選定に関し、用地選定基準は、最終処分場の用地は、位置、構造及び処分方法などから次の条件に適合するものでなければならないと規定している。

<1> 地下水・河川・水路などの水質を汚染する恐れのないものであること。

<2> 地滑り・土砂崩れその他の災害の発生する恐れのないものであること。

<3> 湧水がなく、地下水位の低い場所であること。

<4> 透水性の低い地質であること。

(三) 最終処分場施設の技術上の基準については、廃棄物処理法一五条二項の規定を受けて、共同命令一条及び二条において、その構造基準が定められている。右共同命令二条が準用する一条一項一号ないし六号において、管理型の産業廃棄物最終処分場につき、次の構造基準が遵守されなければならないとされている。

<1> 埋立地の周囲には、地表水が埋立地の開口部から埋立地へ流入するのを防止することができる開渠その他の設備が設けられていること(六号)。

<2> 埋立処分の場所(埋立地)の周囲には、みだりに人が埋立地に入るのを防止することができる囲い(防護柵)が設けられていること(一号)。

<3> 埋立地には、埋立地外からの雨水が入らないよう必要な措置(雨水の集水と排水設備)が講じられていること(五号)。

(四) しかるに、本件許可処分に係る本件最終処分場施設(以下「本件施設」という。)の用地は、右(二)で述べた最終処分場施設用地の選定基準に反するもので、最終処分施設用地としては不適格なものであると同時に、本件施設の構造は、右(三)で述べた構造基準が履践されていないものであるから、用地選定基準及び共同命令に反するものである。本件許可処分は、右の違法を看過してなされたものであるから違法な処分である。

3 本件施設は、雨水の排水処理設備が一部完成しておらず、廃棄物処理法一四条二項一号に基づいて定められている廃棄物処理施行令の技術上の基準に適合していない違法なものであるところ、本件許可処分は、右の違法を看過してなされた違法な処分である。

4(一) 本件施設用地内には、法定外公共物である「里道・赤線道路」(以下「本件道路」という。)が存在している。

本件道路は、一般に認定外道路と称されているものであり、国有財産であり、その国有財産法上の管理者は被告である。他方、群馬県吾妻郡東村(以下単に、「東村」という。)は、地方自治法二条二項及び同村の定める公共物使用などに関する条例により、本件道路の機能及びその維持・管理権を有している。

ところで、被告は、本件道路をも含有している本件施設につき、本件道路用地の占有・使用を前提にして、本件許可処分を行っているが、これは以下に述べるとおり、重大な法律違反である。

(二)(1) 昭和六一年五月一〇日付で、厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室から各都道府県宛に発せられている「産業廃棄物処理業者の許可事務遂行上の留意事項について」と題する通知(以下「厚生省産業廃棄物対策室長通知」という。)によれば、産業廃棄物処理の営業許可について、「廃棄物処理法一四条一項及び五項に規定する産業廃棄物処理業の許可は、許可申請者が、…『適法に使用することが出来る施設を現に所有し』、又は『使用する権限を有している』ことを確認した後において行うものとすること。」と指示・指導している。

(2) 本件道路のような未認定道路(法定外公共物)を国有財産法に基づいて管理している建設省は、会計課長名で、昭和五〇年一月二〇日各都道府県知事(建設省所管国有財産部局長)に対し、「ゴルフ場敷地内に介在する公共用財産処理について」と題する次のような通知を発している。

「建設省所管国有財産部局長は、ゴルフ場造成工事にかかる必要な許認可を所掌する関係機関と連絡を密にして、当該敷地内に介在する公共用財産(里道等)の有無を確認し『公共用財産が存在する場合には造成工事の着工前に当該公共用財産の用途廃止の手続をとらせ、いやしくも公共用財産が不法占有・使用され、事務手続の完了前に形状変更されないようにする』こと」

(三) 右(二)で述べたところによれば、本件道路のような未認定道路である法定外公共物については、まず、被告が、本件道路の道路としての用途廃止の手続を訴外会社にとらせ、右用途廃止の手続完了後、一般国有財産として大蔵省に引き継ぎ、しかる後に、訴外会社が同省から払下げ処分などによって本件道路の所有権を取得しない限り、本件道路は、本件施設用地として占有・使用できないものである。

(四) ところが、被告は、原告らの右の点についての指摘に全く耳を傾けず、本件道路を含んだ土地を本件施設用地として使用することを目的とした本件許可処分を行ったものであるから、本件許可処分には、重大な法律違反があったものである。

5(一) 廃棄物処理法一四条二項、七条二項四号ハによれば、都道府県知事は、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に対しては、廃棄物処理に関する営業許可を与えてはならないと規定しており、右規定は一般に「おそれ条項」と呼ばれている。

(二) 前記厚生省産業廃棄物対策室長通知によれば、許可申請者が、以下の事例に該当する場合に、その資質及び社会的信用の面から適切な業務運営を当初から期待できないことが明らかである場合には、「おそれ条項」に該当するものとして不許可処分にすることができるものとしている。

(1) 廃棄物処理法に係る違反を繰り返しており、行政庁の指導等が累積している場合

(2) その他右と同程度以上に適確な業務遂行を期待し得ないと認められる場合

(三) 訴外会社が、本件許可処分を得るための一連の行動に着手してから、本件許可処分を得るまでの間に訴外会社には、以下に述べるような事実があった。

(1) 訴外会社は、本件許可処分に係る本件施設を設置するために、昭和五九年一一月一三日事前協議規程に基づき、中之条保健所を経由して群馬県に対し、事前協議書を提出したところ、群馬県衛生環境部環境衛生課長は、右事前協議規程に基づき、訴外会社に対し、昭和六〇年一〇月二六日付で、前記事前協議書の審査結果についての通知を発し、本件施設に関する訴外会社の事前計画に対し、

<1> 本件施設の所在地を管轄する東村村長の承諾及び同村議会の納得を得た上で、実施計画書の提出を行うこと、

<2> 実施計画書作成後、群馬県北群馬郡小野上村に説明し、同村の了承を得たうえで、実施計画書を提出すること、

<3> 本件道路に関しては、東村及び中之条土木事務所と協議のうえ実施計画書を作成すること、以上の三項目を含む一一項目の修正指示を行ったが、訴外会社は、右三項目の修正指示に全く従わなかった。

(2) 用地選定基準四条によれば、訴外会社は、本件施設設置に関して、<1>本件施設の隣接地の地権者及び本件施設の敷地から五〇メートル以内に居住している者の承諾、及び<2>本件施設の敷地から三〇〇メートル以内に所在する町内会又は区等の地域の代表者の承諾を得なければならないところ、訴外会社は、右いずれの承諾も得ていない。

(3) 訴外会社は、群馬県衛生環境部衛生課等の指導により、昭和六二年一一月二一日付で中之条保健所に対し、本件施設の排水処理施設などに関する変更届を行っているが、右変更届にかかる施設変更のうち、本件施設内に設置する計画になっている雨水の排水処理に関する設備が一部行われたのみで、その余は全くなされておらず、未完成のままである。

(4) 訴外会社は、本件施設の工事開始後の昭和六二年夏ころ、右施設の敷地内から掘削採取した大量の土砂を右施設の上流にある吾妻川の河川敷内に無断で不法投棄した。この事実を発見した中之条土木事務所から訴外会社に対し、直ちに投棄した土砂を撤去して原状に復するように命令が出されたため、訴外会社はやむなく右土砂を撤去したが、完全に撤去しきれなかった。

(5) 訴外会社は、いわゆる「えせ同和」団体や暴力団的右翼団体を使って、本件施設の設置に反対する原告ら住民や現東村村長鳥山安男らに対し、再三かつ長期にわたって犯罪行為に該当する脅迫やいやがらせを行い、原告らの反対運動を切り崩し押し潰そう、との悪意に満ちた工作を重ねてきた。

(四) 右(三)で述べた訴外会社の一連の行動は、廃棄物処理法一四条二項、七条二項四号ハに該当するものというべきであり、このことは(二)で述べた厚生省産業廃棄物対策室長通知に照らしても明らかである。

(五) 以上によれば、訴外会社は、廃棄物処理法上、廃棄物処理の営業許可を受けることのできない不適格者であるから、このような者に対し、産業廃棄物処理業を許可した本件許可処分は違法なものと言うべきである。

6 以上述べたところによれば、本件許可処分は、廃棄物処理法をはじめとして、関連法規に多々違反した違法な行政処分であるから、取り消されるべきものである。

第三  証拠<省略>

理由

一  被告が、本件許可処分をなしたことは、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告らに、本件許可処分の取消しを求める当事者適格があるか否かについて検討する。

1  行政事件訴訟法九条は、行政処分の取消しの訴は当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができると定めている。そして、ここにいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解すべきである。

2  ところで、右の「法律上保護された利益」があるといえるためには、処分の根拠となった行政法規が当該個人的利益の保護を目的としていることが必要である。すなわち、行政法規が専ら公共の利益の保護を目的としているときに、公共の利益が保護される結果として、特定の者の個人的利益が反射的に保護を受けることとなる場合があるが、このような、いわゆる反射的利益は、法律上保護された利益とはいえないのである。

もっとも、処分の根拠となった行政法規が、公共の利益と並んで、それら反射的利益の全部又は一部をも保護していると解釈されるときは、右の個人的利益は法律上保護された利益であるということができる。

3  これを本件についてみるに、

(一)  保護法益

(1) まず、廃棄物処理法の目的については、同法一条が「廃棄物を適正に処理し、及び生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。」と定めている。したがって同法が生活環境の保全及び公衆衛生の向上という公共の利益を保護の目的としていることは明瞭である。

(2) ところで、廃棄物処理法一四条一項は産業廃棄物処理業の一般的禁止を定める規定であり、本件処分の根拠規定である同条二項は、都道府県知事が右禁止を解いて処理業を許可するのに必要な要件を定める規定である。

同条一項は、「産業廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。」と定める。この一般的禁止規定は、産業廃棄物の処理を業として行おうとする者に対して必要な規制を加えるためのものであり、公益保護の規定であることが明らかである。

同条二項は、「都道府県知事は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と定め、<1>許可申請者が厚生省令で定める技術上の基準に適合する施設及び能力を有し(一号)、かつ、<2>同法七条二項四号イないしハの欠格事由に該当しないこと(二号)を要求している。この処分要件は、一項の目的とする公益の実現を阻害しないためのものであると解されるから、これまた公益保護のための規定であるということができる。

(二)  個人的利益の保護

ところで、原告らは、本件施設の周辺において農業等を営む者、あるいは本件施設の周辺に居住する者であり、本件施設における産業廃棄物処理業の操業によって、その生命、健康に危険が生じ、農業等の生計活動が阻害され、良好な自然環境を奪われる立場にあるとして、本件許可処分の取消しを求め、同法一四条二項は、公益のみならず、それとは独自に、処分場等の施設周辺の住民の個人的利益をも保護していると解すべきであると主張している。そこで、廃棄物処理法が、右付近住民の利益につき、それが帰属する住民個々人の個別具体的利益としてもこれを保護すべきものとしているか否かにつき検討する。

(1) 同法一四条二項一号は、前記のとおり、産業廃棄物処理の事業施設及び申請者の能力が厚生省令の定める技術上の基準に適合することを要求しているが、これを受けて、厚生省令たる廃棄物処理法施行規則一〇条は、技術上の基準に適合する施設及び能力について、別紙二のとおり規定している。

右の定めは、産業廃棄物処理業許可の申請者が行おうとする産業廃棄物処理業務の種類に応じ、これを三つの場合に分けて規定しているが、そのうち、産業廃棄物の収集又は運搬を行う場合には、「産業廃棄物の飛散、流出、悪臭漏れ、地下浸透などのおそれのない運搬・保管施設」等を規定しており、また本件許可処分の対象業務である埋立処分を行う場合には、「処分する産業廃棄物の種類に応じ、当該産業廃棄物の埋立処分に適する最終処分場及びブルドーザーその他の施設」と「処分を適確に遂行できる能力」を規定している。これは、申請者に対し、一定の物的及び人的能力を要求することにより、当該廃棄物処理事業の適正な運営を図ろうとするものに外ならない。

(2) 同項二号は、申請者が同法七条二項四号イからハまでのいずれにも該当しないことを定めているが、右七条二項四号イからハは左記のとおりである。

イ この法律又はこの法律に基づく処分に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者

ロ 同法七条一一項の規定により許可を取り消され、その取消しの日から二年を経過しない者

ハ その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

右は、いわゆる欠格要件といわれるもので、産業廃棄物処理事業に関する申請者の一般的適性についてのものであり、要するに、法に従った適正な廃棄物処理事業の運営を期待し得ない者ないしは当該産業廃棄物処理事業を行うにふさわしくない者を類型化して排除しているものである。

(3) 以上によれば、同法一条の掲げる生活環境の保全及び公衆衛生の向上という目的を受けて、同法一四条二項一号は、産業廃棄物の処理が適正に行われるようにすることを、同項二号は、健全な産業廃棄物処理業者を処理事業に参加させることを、それぞれ目的としているものと認められる。そして、同項は、右の産業廃棄物の適正処理及び健全な産業廃棄物処理業者の処理事業参加を、現在及び将来における国民の一般的公益として保全しようとする立場をとるものであると考えられる。そうすると、右の公益に包含される国民の個々人に帰属する具体的利益は、右の公益の保護を通じて反射的に保護される利益という地位に立つことになる。そして、同項が処分場付近住民各個人の利益を直接個別的に保障しているという解釈を、同項の趣旨から導くことは困難である。なお、その他同法には、同条二項が付近住民の個別的利益を保障したものであると解する根拠となるような規定は見当らない。

(三)  ところで、原告らは、廃棄物処理法を受けて制定された用地選定基準三条及び四条(その内容は別紙三記載とおりである。なお用地選定基準は、昭和五六年一二月一六日定められた「群馬県における産業廃棄物の最終処分場、中間処理施設、保管・積換施設、再生利用施設の用地の選定、構造及び維持管理等の基準並びに事務手続等に関する基準」を改正したものであり、改正前の基準中で、右三条及び四条に該当する規定は別紙四記載のとおりであって、改正の前後で基本的な変更はないものである。)は、廃棄物処理施設の周辺住民の個々人の個別的利益を保障した規定である旨主張するところ、たしかに右用地選定基準は、廃棄物処理法の目的を受けて制定されたものであり、その趣旨とするところは、行政権に対し、廃棄物処理施設の設置にあたっては、施設周辺住民の意思を出来る限り尊重すべきことを求めているものと解されるが、右規定(ないしは用地選定基準そのもの)は、あくまで産業廃棄物処理施設の設置に際しての行政指導に関する指針にすぎないものであるから、これがあるからといって、廃棄物処理法一四条二項が付近住民の個別的利益を保護目的とするものであると推論するのは相当でない。

(四)  以上を要するに、原告らは、廃棄物処理法一四条二項によって保護された権利利益を有せざる者であり、本件許可処分によって権利利益を必然的に侵害されるおそれのある者でもないということになるから、本件許可処分の取消しを求める法律上の利益を有せず、行政事件訴訟法にいうところの原告適格を欠くものといわざるを得ない。

4  以上の次第で、原告らの本件訴えは、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水悠爾 裁判官 高橋祥子 裁判官 大久保正道)

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